たしか、2003年ごろの話。
私はオーストリアのウィーンにいて、ある時、クリスティーナ57歳が言った。
「ノルディック・ウォークというのが流行っているのよ。
スキーのストックみたいなのを持って歩くの。
散歩する時なんか、とてもいいのよ。」
今思うと、最先端の情報だった。
2000年が過ぎたころ、ドイツやオーストリアで「ノルディック・ウォーク」がじわじわと流行の兆しを見せ、
新しいスポーツとして一般に広まっていった。
この写真はオーストリアのサイトに掲載されたもの。あちらでも中高年が目立っている。
手軽な運動であるウォーキングが、
ポールを持つことで足腰への負荷がかからず、転倒を防止して安全になり、
気の合う仲間と一緒に歩くという楽しみがさらに加わって、中高年に広がったのだと思う。
クリスティーナは明るい主婦で、子供や孫の面倒をみたり、
誕生日やクリスマス、週末にも家族を集めて得意の料理を作っていた。
レバークヌーデル(Leberknödel)、フリダーテンズッペ(Frittatensuppe)。
グラーシュ、カイザーセンメル、クラプフェン。
お料理もお菓子も、1から手作り。手が込んでいてとても美味しかった。
忙しい毎日、夫と一緒に散歩に出るとき、クリスティーナはノルディックポールを持っていく。
ノルディックウォークは、家事も育児も頑張っている彼女が気分転換しながら運動不足を解消できる、効率的な方法だった。
ウィーンは過ごしやすい気候で、治安も良い。
家事が終わって一息つくと、買い物ついでに公園を歩く。
友達と一緒に、季節の花を見ながら、お話ししながら歩く。
また頑張ろうと思える貴重な時間、貴重なノルディックウォークだったと思う。
それから日本にノルディックウォーク、ポールウォークが入ってきたのは、3年から5年あと。
ジャパニーズスタイルとかディフェンシブスタイルと言われる、
厳密にはノルディックウォークと少し異なる歩き方が広まった。
それでも、仲間と一緒に歩いて楽しむのは同じだ。
用事がないと家に閉じこもりがちな中高年が、
一緒に歩く目的で集まって楽しむのはとても良いと思う。
定期的に約束して、会う。それだけでも心の張り合いになる。
いつもの顔ぶれに会って、軽い運動をしながらおしゃべりをする。
元気だった?どうしてた?あたたかい会話が弾む。
ポールを持って歩くだけで、身体の健康管理だけでなく、心の健康にも役立っていることを実感する。
その後私は日本に戻り、なかなかウィーンには行かれないけれど、
クリスティーナが焼く甘い甘いケーキの味や、家族の笑顔と一緒に、
まだ、夫婦で仲良く歩いているだろうかと、時々彼らのことを思い出す。
とても暖かく迎え入れられていたことに今さら気づき、感謝の気持ちがたえない。
日本でウォーキングポールを作っているよと今度お土産に持っていったら、どんな顔をするだろう?